現在ペンション「とうろの宿」の経営とカヌーガイドをしているバンド「RED WARRIORS」のベーシスト・小川清史さん。ミュージシャン活動で忙しい日々を過ごしていた小川さんは、ある出会いがきっかけで、都会の暮らしを捨て塘路へ移住を決意することに。そんな小川さんに、移住を決めた釧路の魅力を語ってもらいました!
【取材協力】標茶町塘路「とうろの宿」
偶然訪れた塘路で運命の出会い
ーー移住される以前から北海道へは遊びに行っていたんですか。
学生時代から独り旅が好きで、北海道へはよく行っていたんです。北海道の醍醐味は冬だと思っていたので冬ばかり来ていましたね。学生時代は知床に通っていた時代もありますけれど、当時のユースホステルはみんなで歌を唄ったりしていたんですよね。僕はギターが弾けたので、知床のあちこちのユースホステルでギター係みたいなことをしながら旅をしていました。
ーー知床へ通いだしたきっかけはなんだったんですか?
知床へ通いだしたのは流氷を見てからですね。“音のない海”に感動したんです。その時は学生だったので春休みを利用して行ったんです。ちょうど3月で接岸していた氷が割れてオホーツクの海に散りばめたようになっていて、すごく綺麗でしたね。かれこれ40年前の話になりますけれど。
木暮武彦さん、DIAMOND☆YUKAIさんと1985年に結成したバンド「RED WARRIORS」で音楽活動を始める前は独り旅をよくしていたという小川さん。バンドは1989年に一度解散、以降再結成と活動休止を繰り返し、1997年に5枚目のアルバムを発表した後、再び北海道へ。
再結成して5枚目のアルバム『FIRE DROPS』を出して5大都市ツアーを開催したんです。そのツアーが終わって時間がふっと空いたので、いつものように夜行列車に乗って北海道へ向かいました。その時は釧路の方へまだ行ったことがなかったので行ってみたんですが、弟子屈町(てしかがちょう)で泊まったユースホテルでみんなで歌を唄ったりして一晩中大盛り上がりしたんです。盛り上がったことは楽しかったんですが、疲れてしまって(笑)。そこで静かな所へ行こうとたどり着いたのが塘路(とうろ)だったんです。距離的にもそこまで遠くなくて弟子屈町から汽車に乗って小一時間くらいでしたしね。
ーー偶然塘路を訪れたのですね。
そうですね、本当に偶然というか。それで釧路湿原を初めて見た時は繊細というか “大人にならないと感じられないもの” があることに気づきました。湿原自体は地味ですけれど、生物の多様性がすごいんです。若い頃って感覚がざっくりしているというか、バーンと広いとか、色も真っ赤、真っ青みたいな鮮明なものに惹かれるんですよね。僕が最初に知床に惹かれたのも圧倒的な自然のすごさというのがありましたから。
釧路湿原で、初めて “細な自然” を感じた小川さん。さらにここでのカヌー体験が人生を変えることに。
カヌーはエンジンがなく無音なんです。だからこそ味わえる湿原の四季折々の変化を知ることができたので、とてもいいところだなと思いました。その頃はまだ東京に住んでいたのですが、この体験をしてからはワンシーズンだけ釧路に行って “ガイドのマネごと” みたいなことをしては東京へ帰る、という生活を何年か続けました。
ーー “ガイドのマネごと” といっても、いったいどうやって始めたんですか?
現地で知り合った宿泊施設の方と一緒にカヌーツアーを立ち上げたんです。それが縁で、最終的に塘路に住むことに決めました。
ーー実際に塘路に住んでみて驚いたことはありますか?
カナディアンカヌーのガイドとして、毎年、関東に2カ月近く帰るんですけれどやっぱり向こう(関東)の方が寒いですね。だから寒さに関しては大丈夫でした。北海道は家が温かいので、本州の冬は家が寒いことを知りました。それと僕の実家は埼玉で自然がまだ残っている地域とはいえ、塘路と比べるとうるさいですね。あと生活上で困ったことでいえば沢山ありますよ、ネット環境が不便だったり、水道が凍ったりね。
ーー食べ物の違いはどうでしたか?
食べ物だと一番はホッケですかね、大きさも厚みも何もかも違いますから。この間、白子を一房買って食べましたけれど、そういったものもこっちに住んでいなかったら食べられてないですよね。それと釧路は十勝にも近いので根菜には恵まれています。今は東京でも手に入るものもあるんですけれど、値段が全然違いますよ。
1998年から釧路湿原に通い続け、2003年ついに移住を決意。そしてついにペンション経営へ乗り出します。
カヌーも体験できるペンション「とうろの宿」
ーーペンション経営をやろうと思った経緯を聞かせてください。
順番としてはガイドを始めてからですが、ペンションをやろうと考えたのは変な話、ごく一般の社会人から見たら自分に学歴や職歴がないからなんです。ミュージシャンは、履歴書に書けない人生なんですよ。でも、自分の経験や出会った人たちとの関係がこの仕事なら活かせるんじゃないかと思ったんです。それで、今までは僕が迎え入れてもらう立場だったのから、今度は人を迎える立場になりたい、塘路に来て何かやれるんだとしたらそれかなって思いました。移住するのも運というか、巡り合わせというか、地元のアイヌの方で僕によくしてくれた方がいたんですけれど、こっちに住みたいと伝えたら、知り合いの地主さんを紹介してもらえたんです。それで住む土地がなんとかなりそうだとなってから、動き出しました。
ーーお客さんはどんな層の方が多いですか。
夏と冬ではすごく変わりますね。夏休み中は家族連れの本州の方が増えて、秋冬は道民の方がいらっしゃいます。カヌーに乗りたい場合のガイドは基本僕だけなので、普段は5人から6人、多いと10人くらいですかね。僕がでられる範囲でしかやらないので、1日多くて3回くらいです。
ーーお知り合いのミュージシャンの方が泊まりに来ることもあるんでしょうか。
ドラマーの小柳 “cherry” 昌法さんやファンキー末吉さんが泊まりにきてくださいましたね。他にも遊びに来たいといってくれるミュージシャンの方はいるんですが「何があるの?」と聞かれると「何もないよ」と答えてますね(笑)。
ーー道外から泊まりに行く場合、おすすめの時期はありますか?
一番いい時期っていうのは難しいんですね、どの季節もいいときはいいですから。寒いのが大丈夫ならば1月の後半から2月にかけてですね。なんでかっていうと『雪まつり』といったイベントが多く開催されるのが2月なんですよ。それと釧路湿原国立公園から阿寒摩周国立公園を抜けて、知床の流氷沿いを通る釧網線という鉄道があるんですが、この路線があるうちにぜひきてもらいたいですね。
ーー「とうろの宿」さんで、カヌーに乗れる時期はいつ頃までなのでしょうか?
湿原は凍りづらいんですよ。だから天候さえよければいつでも乗ることが可能ですよ。
ーーえっ、冬でもできるんですか?
うちは冬もやってますよ、冬は冬で抜群に綺麗なんですよ。霧氷が花のようになっていてすごく綺麗です。できれば空気中の水分が凍るマイナス15℃以下で湿度が90%になったら抜群ですね。物好きの方がいればですけれど(笑)。
湿原は湧水が常に供給されているため、水面は凍っても中の水は凍りづらいそうです。小川さんのペンションではどの季節でも天候がよければカヌー体験は可能で、条件付きではありますがワンちゃんとも乗れるそうです。
ーーちなみにやはりカヌーに乗ることは難しいものなのでしょうか?
カヌーも「カヤック」や「カナディアンカヌー」といった色んな種類があるんですが、うちはカナディアンカヌーです。カヤックはパドルを両方使うんですけれど、シングルブレードパドルといって片方だけのパドルで漕ぐのがカナディアンですね。もともと北米のインディアンたちが移動手段に使ったのがカナディアンカヌーの始まりらしいです。材質は進化しているんですけれど、片方で漕ぐのでまっすぐ進むのが難しいんです。だからシングルブレードパドルにはまる人はマニアックだなと思いますね。僕の周りもカヌー乗っている人が多いですけれど、みんなシングルブレードパドルが好きですね。
こちらがシングルブレードパドル。漕ぐときは、まっすぐに進むようパドリングをしなければならないのでコツが必要。
ーー小川さんが考える、カヌーのよさとはなんでしょうか?
カヤックより荷物を多く乗せられるところですかね。僕の周りの人たちも、だいたい犬連れでキャンプ道具を乗せて川とか湖でデイキャンプをしていますよ。
釧路湿原の美しさに魅了され移住を決意した小川さん。現在もバンド活動を続けながら、ペンション経営とカヌーガイドと大忙しだそう。後半では、小川さんに地元の方にも知ってほしい釧路の自然の素晴らしさやそれに伴う心境の変化などを語っていただきました!
Profile
小川清史(おがわ・きよし)
1964年4月25日生まれ・東京都出身。
1985年からロックバンド『RED WARRIORS』のベーシストとして活躍。
2003年に北海道へ移住し、釧路市標茶町塘路で、
ペンション「とうろの宿」を経営。現在、カヌーガイドとしても活動している。
【釧路湿原とうろの宿】
住所:北海道釧路市標茶町塘路83-8
JR釧網線・塘路駅から徒歩約5分
施設:5部屋(愛犬と宿泊可能な部屋有り)、最大14人宿泊可能
6月〜10月の期間は夕食の提供可能(要予約)
宿泊者限定で湿原カヌーツアーも実施。
電話:0154-87-3655
Email:toro106@cpost.plala.or.jp
HP:http://www9.plala.or.jp/touro/index.html
Information
ーRED WARRIORS完全復活ー
『第1弾 “SWINGIN DAZE” 21st Centuryリリース30周年完全版ライブ』
6月頃開催予定
Officialウェブサイト「RED WARRIORS」